アカデミー賞有力候補とも言われていたブラッドリークーパーとレディガガ主演の「アリー/スター誕生」、実は結構前に見ていました。(残念ながら作品賞はグリーンブックが獲り逃してしまいましたが、同じ音楽をテーマにしたボヘミアンラプソディと同じ時期の公開でどちらも盛り上がっていましたね。
この作品はブラッドリークーパーの初監督作品で、僕の一番の感想として、映画のどこの部分を取っても絵になるという、計算され尽くして撮っているのが分かって見ていて気持ちが良かったです。
特にアリーとジャックが初めて会った夜、どこにでもありそうな普通のスーパーの灯の前で二人が深夜話すシーンがあるんですが、そこのシーンだけ取っても雰囲気があってカッコいい。ポスターにして飾りたいくらいです。
WARNER BROS.
そんな「アリー/スター誕生」ですが、ラストについていろんな人の感想を見ていると結構好き嫌いが分かれていて、自分的には映画全体のことよりそのラストの展開にまつわる疑問点がずっと気になっているので、ちょっと書いてみようと思います。
以下より「アリー/スター誕生」のネタバレを含むので、注意してください。
リハビリ施設でアリーがジャックに言ったこと
ジャックは依存症のリハビリ施設に入り、プールで泳いだり健康的な生活を送りながらあと少しで施設を出られるという時に面会しにきたアリー。再会こそ良かったものの、アリーはジャックに対して「リハビリが終わったらどうするの?一緒にまた住むかそれとも他に行くあてがある?」という様なことを言いました。ジャックにしたらもちろんアリーと一緒にまた住んで今度こそは依存症に振り回されず幸せな生活を送りたいと思っていただけに、自分が戻ると迷惑だと思われてるのかと違和感を感じたはずです。
アリーも質問したあとにそういう風に思わせてしまって悪かったと思ったのか、必死に取り繕っていましたが、僕にはあの時なんでアリーがその質問をしたのか疑問です。あと少しでリハビリが終わる人に言う言葉では無いと思うし、アリーはグラミーでの件がありつつもジャックのことを支え続けていく雰囲気に僕には見えてました。が実はそうではなかったと言うことなんですかね。
アリーがジャックについた嘘
ジャックが施設から家に戻ってきたあと、アリーは「今日のライブが終わったら次のアルバム作成にかかる必要があるから、フランスのライブは休止して夏の間一緒に過ごすことにした。」と言うんですが、それは本当はジャックと一緒に居られる様にする為の嘘でした。
音楽業界で長年アーティスト活動をやっていたジャックはこれを聞いてすぐに嘘だと気づきますが、敢えて何も言わずに黙っていました。ジャックとしては自分がいることでアリーの将来の妨げになってしまうと感じてしまい深く落ち込んだと思います。実際ベッドで寝転びながら天井を見上げているジャックはまさに心ここに在らず状態で見ていて辛かったです。
アリーとしてはジャックの為についた嘘だったのは分かりますが、その事でジャックは「自分がいる事でアリーの邪魔になってしまう、自分はいない方が良いんだ」という気持ちが大きくなってしまったのはとても悲しい事実でした。
アリーのマネージャーがジャックに言った事
ジャックが死を選んだ一番大きな引き金になってしまったのは、アリーのマネージャーがジャックに対して言った鋭い言葉でした。もちろんジャックがやった事はアリーのアーティスト活動に大きなダメージを与えた事は確実です。ただ、それをリハビリ施設から帰ってきたばかりのジャックに言うべきでは無いし、その発言が原因で死を選んでしまうかもしれないと言う事は考えるべきだったと思います。言ったところで過去のことはどうしようも出来ないことですし。
小さなことの積み重ねがジャックを死に向かわせた
これらの他人から見れば小さな、些細なことに見える積み重ねでジャックは自分に対する自己肯定感や、自分がいなくなった方がアリーは幸せになるという考えから逃れられ無くなってしまい、逃げること(死を選ぶこと)しか考えられなくなったんだと思います。
もちろん普通なら自分が死を選ぶことで周りがどんなに苦しむかを想像し、死を思いとどまることが出来ますが、人は一度自己肯定感が無くなってしまうとそんなことすら考えることが出来なくなってしまい、ただ逃げるしかないと言う思考停止になってしまいます。ジャックもそのような状態になってしまい、最終的に一人で死ぬことを選択しました。僕も過去同じ様な感覚になったことがあり、そのことをとてもリアルに思い出しました。ブラッドリークーパー自身が以前依存症などの精神的な病気で苦しんだからこそ、これらの描写や感情表現はとてもリアルで見ていて息がつまる様でした。
もしあの時あの言葉がなかったら、逆に思いがけない一言で最悪な状況が変わっていたら、そんなことを言い出したらきりがないですが、生きていく上で周りの人々や自分に対しても優しくすることで悲しい出来事は少しでも減っていくのかもしれないと感じました。
それにしてもラストの曲の最後のフレーズで ジャックが歌うところは何度聞いても泣けます。